この記事の結論

証拠や資料が揃っていなくても、知財相談は始められます。まず伝えたいのは、気になる出来事と、公開・契約の予定日です。専門家と期限を見極めたうえで、必要な記録を集めれば、優先すべき対応が分かります。

何から伝えればよいか迷うとき

新しい技術を発表する前や、他社の似た商品を見つけたときには、知財の問題が気になるものです。「何を証明すればよいのか」「出願するか決めてから連絡した方がよいのか」と迷うこともあります。「何も分からないまま専門家に時間を取ってもらうのは失礼ではないか」という遠慮もあるでしょう。

準備の目的は、起きたことを専門家に伝えることです。自社の商品と相手の商品が似ている点や、自社が予定している公開の内容を書き留めることから始めてみてください。

準備を待つ間に、手続の期限が過ぎることがある

知財の手続には、法律で期限が決まっているものがあります。例えば、日本の特許で新規性喪失の例外を利用するには、対象となる公開から1年以内の出願が条件の一つです。商標の登録異議申立ては、商標掲載公報の発行日から2か月以内に行います。

記録を集めている間にも、こうした期間は進みます。公開予定日がある場合は、公開前の出願を検討します。契約を予定している場合は、締結前に権利の帰属や利用条件を話し合います。相手の販売ページが削除される可能性もあるため、手続の期限と、記録を残せる時期を分けて考えると、行動の順番が見えてきます。

最初に伝える5つのこと

専門家が最初に知りたいのは、「今、何が気になっているか」という状況です。次の5点を短いメモにすると、話を進めやすくなります。

専門家は、その説明をもとに関係する権利を見極め、追加で調べる事項を絞ります。

事実と希望を分けて伝える

「4月に相手の商品を見つけた」「自社の名称を今後も使いたい」のように、出来事と希望を分けて書きます。日付が確かな出来事には年月日を、記憶だけの場合は「4月頃」などと記載すれば、後でメールや注文履歴と照合できます。

話し合う中で、当初想定した権利や対応方針が変わることもあります。例えば、技術を特許で保護するか、営業秘密として管理するかは、技術の特徴と事業の進め方によって判断が分かれます。商標や特許といった分類を決めることより、どこが気になり、どうしたいのかを具体的に伝える方が、判断の手がかりになります。

先に見るのは、期限と予定日

次の表では、法定期間、公開・契約の予定日、記録を保存する時期を区別しています。記録が揃う前でも、分かる日付と気になる出来事を先にお知らせください。対応の順番を決める手がかりになります。

状況別の期限・予定日と、最初に伝えること
状況早めに取り組む理由期限・時期最初に伝えること
製品・技術の公開や発売を予定している 公開前に出願の要否と公開範囲を検討するため 予定日展示、Web掲載、発売などの前 最も早い公開予定日と公開内容
発明を出願前に公開してしまった 新規性喪失の例外の適用条件と必要な手続を調べるため 法定期間日本の特許では、対象となる公開から1年以内の出願が必要です(適用条件と手続は下記参照) 公開日、内容、媒体、それ以前の公開履歴
他社の商標登録が気になる 登録異議申立てができる期間が限られるため 法定期間商標掲載公報の発行日から2か月以内 登録番号、公報発行日、自社との関係
相手の販売ページが消えそう 削除後には掲載内容を調べにくくなるため 保存の目安閲覧できるうちに保存 URL、閲覧日時、気になる内容
外注契約や取引契約の締結が近い 締結前に権利の帰属や利用範囲を交渉するため 予定日契約締結や成果物の利用開始前 契約案、締結予定日、気になる条項
差し迫る予定がなく、悩みも曖昧 調査と記録集めの優先順位をつけるため 一律の期限なし具体的な出来事に応じて判断 気になる出来事と希望する対応

新規性喪失の例外の「1年」と、出願後の手続

日本の特許では、一定の要件を満たす公開について、新規性喪失の例外を適用できることがあります。対象となる公開から1年以内の出願が条件の一つです。自らの公開など、特許法30条2項の適用を受ける場合は、原則として出願時にその旨を申し出て、出願日から30日以内に証明する書面を提出します。公開から出願までの期間と、出願後の書面提出期間は、別の期限として管理します。

この制度は、公開による新規性の喪失などを、一定の条件のもとで救済するものです。第三者が先に行った出願や公開の影響も調べ、海外出願を希望する場合は各国の制度に沿った方針を立てます。公開日と公開内容、過去の発表やWeb掲載の履歴を伝えてください。

参考:特許庁「発明の新規性喪失の例外(特許法第30条)」

商標の登録異議申立ての「2か月」は、公報の発行日から

商標の登録異議申立ては、商標掲載公報の発行日から2か月以内に行う手続です(商標法43条の2)。起点になるのは、公報の発行日です。登録を見つけた日や登録日から数えると、期限を取り違えるおそれがあります。

期間は月単位で数えます。例えば、4月10日発行の公報なら、提出期限は6月10日です。末日が土曜日、日曜日、祝日等の閉庁日に当たる場合は、翌開庁日になります。申立書の提出期間を延長する請求は認められていません。

期間を過ぎた後も、無効審判など別の手続を検討できる場合があります(商標法46条・47条)。期限が近い場合は、その旨を最初にお伝えください。期限までに取れる対応を、専門家と協議します。

参考:特許庁「6.商標登録異議申立て(商標)」Q6-1・Q6-2

画面やメールは、消える前に保存する

相手の販売ページやSNS投稿は、URLと閲覧日時が分かる形で保存します。やり取りのメールは、送信者・受信者・日時も残しておくと、出来事の経過をたどれます。具体的な保存方法は、「マネされた気がする」は、知財の話ですでも紹介しています。

法定期間と予定日を先に調べ、消えそうな記録を保存します。そのうえで、専門家と必要な調査や手続に優先順位をつけます。

設例:展示会の後に、公開履歴と出願方針を調べる

架空の設例:部品メーカーA社が、展示会で紹介した新しい機構の特許出願を検討するケースです。図面や開発記録は社内に散在しており、担当者は展示時の写真と説明内容のメモを手元に持っています。

展示会の公開から出願方針の検討まで(架空例)
時期出来事と対応
4月10日展示会で新しい機構を説明した。この時点では未出願。
4月15日(初回相談)担当者が写真とメモで展示内容を説明した。専門家が海外出願の希望を聞き、展示会以前の公開履歴を調べる必要性と、出願に向けた手続・期限を説明した。
相談後担当者が展示に使ったスライドや公開履歴を集め、専門家と公開の経緯を調べた。出願する国と、新規性喪失の例外に必要な手続について話し合った。

同じ機構を以前からWebで公開していた場合、例外を利用するための期限が、展示会の日から計算したものより早くなることがあります。そのため、Web掲載や過去の発表の履歴もたどります。日付は説明のための例です。

初回30分で、次の行動を見定める

知財の余白の初回30分では、関係しそうな権利や、今動くべきかを判断する材料をお伝えします。詳しい調査や正式な手続が必要な場合には、その進め方をご案内します。

内容がまとまっていなくても、そのままお問い合わせください。分かっている予定日や出来事をお聞きし、次に何を調べ、誰に依頼するとよいかをご案内します。ご利用前には、初回30分で相談できる内容もご覧ください。

知財相談の準備に関するよくある質問

資料が一枚もなく、記憶だけでも相談できますか?

はい。覚えている出来事をお話しください。相手への請求や侵害の判断に進む際には、話の内容を裏づけるメールや写真などが必要になることがあります。

出来事の順番や日付が曖昧な場合、どう書けばよいですか?

「5月頃」「発売前の打合せ」など、おおよその時期を書き、日付が確実な出来事と分けてください。関連するメール、予定表、注文履歴、ファイルの更新履歴が、後で経過をたどる手がかりになります。

公開や契約締結が迫っている場合、資料集めより先に相談した方がよいですか?

はい。特許や意匠では出願前の公開が権利取得に影響することがあり、契約は締結後に条件を変えるには相手方との交渉が必要になるためです。最も早い予定日と、公開・契約しようとしている内容を先に伝えてください。

初回相談までに、最低限メモしておくとよいことは何ですか?

出来事、相手と対象(会社・商品・技術・名称)、日付、手元の記録(メール・写真・URLなど)、希望する対応の5点です。分からない項目は「不明」と書き、記録の保存場所も添えると、必要な記録を探しやすくなります。詳しくは本文の「最初に伝える5つのこと」をご覧ください。

参考資料

  1. 特許庁「新規性・進歩性の審査基準」第5節 発明の新規性喪失の例外(特許法第30条)(2026年10月6日確認)
  2. e-Gov法令検索「商標法」43条の2・46条・47条
  3. 特許庁「6.商標登録異議申立て(商標)」Q6-1・Q6-2(2026年10月6日確認)

執筆・文責

弁理士 中村幸雄

特許・商標を中心に、著作権、意匠、営業秘密など、事業上の知財課題を見極める弁理士。 「知財の余白」では、権利の種類がまだ分からない段階から、関係する権利や事業上のリスクを見極めるための情報を発信しています。