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この記事の結論
AI受託開発では、費用を支払ったから発注者がすべての権利を取得するとも、受託会社が作ったからすべての権利が受託会社に残るとも限りません。納品物、知的財産権、利用範囲、再利用、第三者サービスの条件を、対象ごとに分けて契約する必要があります。
AIシステムの開発を外部へ委託すると、納品時にはさまざまなものが存在します。
ソースコード、プロンプト、RAG用文書、データベース、評価結果、操作画面、ログ、運用マニュアル、外部AIとの連携設定。さらに、開発の過程で得られたノウハウや、新しい技術的な工夫が含まれることもあります。
これらを契約書でまとめて「成果物」と呼ぶだけでは、誰が何を使えるのかは明確になりません。
この記事では、AI受託開発で生まれるものを五つの対象に分け、発注者と受託者が契約前に確認すべき権利と利用条件を整理します。
「成果物一式」では権利関係が決まらない
最初に分けたいのは、「納品されること」と「知的財産権が移ること」です。
ファイルやシステムを受け取っても、その著作権まで当然に移転するとは限りません。反対に、権利の譲渡を受けても、稼働に必要な外部APIや第三者のライブラリを継続して利用できなければ、事業で使い続けられないことがあります。
経済産業省の「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」も、インプットとアウトプットの取扱い、サービス水準、データ利用、ログ、規約変更などを分けて確認する考え方を示しています。
契約では、少なくとも次の五つを別々に考えます。
- 何を納品するか
- どの知的財産権が誰に帰属するか
- 発注者がどこまで利用・改変・再委託できるか
- 受託者が別案件で何を再利用できるか
- OSS、外部AI、データセットなどの第三者条件が何を制限するか
契約前に分ける五つの対象
| 対象 | 主な確認事項 | 契約で決めたいこと |
|---|---|---|
| ソースコード・プログラム | 既存コードと新規開発部分、著作権、開発環境 | 譲渡か利用許諾か、改変、再委託、保守終了後の利用 |
| プロンプト・RAG構成・設定 | 著作物性、秘密情報、運用ノウハウ | 納品範囲、開示範囲、受託者の再利用、秘密管理 |
| 顧客データ・入力・ログ | 提供権限、利用目的、個人情報、秘密情報 | 学習、改善、統計化、第三者提供、保存、返却・削除 |
| AIモデル・生成物・評価結果 | 基盤モデルと追加開発部分、利用規約、著作物性 | 利用範囲、再生成、保証、第三者権利、モデル更新 |
| ノウハウ・発明・改良技術 | 既存技術、新規成果、発明者、秘密管理 | 特許出願、利用許諾、改良成果、別案件での利用 |
1.ソースコード・プログラム
ソースコードやプログラムは、創作性が認められる場合、著作権で保護されます。ただし、納品したことや開発費用を受け取ったことだけで、著作権が当然に発注者へ移転するわけではありません。
著作権を譲渡する場合は、どのプログラムの、どの権利を移すのかを明確にします。著作権法第61条第2項は、同法第27条・第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、譲渡した者に留保されたものと推定すると定めています。また、著作者人格権は譲渡できないため、その不行使を求める場合には別の整理が必要です。
実務では、新規に開発したコードと、受託者が以前から保有する共通ライブラリや開発基盤を分けます。すべてを発注者へ譲渡すると、受託者が従来から使っていた技術まで利用できなくなるおそれがあります。一方、発注者に必要な改変・保守・再委託の権限が不足すれば、受託者との契約終了後にシステムを維持できません。
「誰が持つか」だけでなく、「発注者の事業に必要な利用を継続できるか」まで確認することが重要です。
2.プロンプト・RAG構成・設定
プロンプトであれば常に著作権が発生するわけではありません。短い指示や、ありふれた表現には著作物性が認められないことがあります。
しかし、著作物に当たらないことと、自由に持ち出し、公開し、別案件で再利用できることは同じではありません。システムプロンプト、RAG用文書の分割方法、評価基準、再生成条件、エラー時の処理などは、事業上のノウハウや秘密情報として価値を持つことがあります。
契約では、実際に納品するプロンプトや設定と、受託者側に残す一般的な開発手法を分けます。発注者が内容を確認・修正できるのか、受託者が共通化して別案件で使えるのか、第三者へ開示できるのかを定めます。特許として公開する部分と秘密として残す部分の考え方は、「特許で守るか、秘密で守るか」でも整理しています。
3.顧客データ・入力・ログ
データについては、「所有権はどちらにあるか」という一つの言葉だけで整理しない方が安全です。
データの中に著作物、個人情報、営業秘密、第三者から利用条件付きで提供された情報が含まれることがあります。また、同じデータでも、サービス提供のために一時的に使うことと、汎用モデルの学習、品質改善、統計化、別顧客へのサービス提供に使うことでは、目的が異なります。
そこで、誰がどのデータを提供するか、提供する権限があるか、どの目的で使えるか、保存期間、契約終了時の返却・削除、バックアップやログの扱いまで分けて確認します。
契約で決めた条件と実際の開発経緯を結びつけるには、データ提供一覧、アクセスログ、削除記録などを残しておくことも重要です。
4.AIモデル・生成物・評価結果
AI受託開発では、受託者が基盤モデルそのものを開発するとは限りません。外部事業者が提供するモデルやAPIに、検索、プロンプト、評価、画面、業務フローなどを組み合わせてサービスを作る場合があります。
このとき、基盤モデル、追加学習部分、埋め込みデータ、評価用データ、評価レポート、生成された文章や画像を一括して扱わないことが重要です。受託者が保有していない基盤モデルの権利まで発注者へ移すことはできませんし、サービスの利用規約によって利用方法や提供継続の条件が変わることもあります。
AI生成物の著作物性について、文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」は、利用者に創作意図と創作的寄与が認められるかなど、具体的な生成過程を踏まえて検討する考え方を示しています。著作物に当たるかという問題と、既存の著作物に対する権利侵害の問題は分けて確認する必要があります。
5.ノウハウ・発明・改良技術
開発の過程では、納品ファイルとは別に、実装方法、評価方法、データ加工、障害対応などのノウハウが蓄積されます。技術的な工夫が発明に当たる場合には、特許を受ける権利や特許出願の方針も問題になります。
ここでは、契約前から各社が持っていた既存技術と、委託開発で新たに生まれた成果を分けます。さらに、納品後に生まれる改良技術、派生機能、他の顧客にも使える一般的なノウハウを誰が利用できるかを決めます。
すべてを機械的に共有にすると、単独で特許出願やライセンスを行いにくくなることがあります。反対に、一方へ帰属させる場合でも、他方の事業に必要な利用権を確保する設計が考えられます。既存技術と新規成果の分け方は、共同開発における知財の持ち方、役割・成果・対価・事業化権の関係はAI共同開発契約の記事でも扱っています。
第三者のOSS・AI・APIは横断して確認する
OSS、外部AI API、クラウドサービス、学習済みモデル、データセットなどは、五つの対象すべてに関係する第三者要素です。
受託者は、自ら保有している以上の権利を発注者へ譲渡できません。そのため、成果物一覧には、自社開発部分と第三者要素を分けて記載し、名称、バージョン、ライセンス又は利用規約、確認日、成果物のどの部分で使っているかを残します。
中小企業庁の「知的財産取引に関するガイドライン・契約書のひな形」は、既存技術を守りながら開発成果の帰属を定める考え方や、第三者の知的財産権に関する責任を一方へ例外なく転嫁しない考え方を示しています。
契約前・開発中・納品時・終了後に確認する
契約前
発注者と受託者が持ち込む既存コード、データ、ノウハウ、外部サービスを一覧にします。成果物の定義、権利帰属、利用範囲、再利用、第三者要素の責任分担を決めます。
開発中
仕様変更、追加開発、データ提供、外部サービスの追加、担当者の判断を記録します。契約後に生まれた成果が当初の成果物に含まれるかも確認します。
納品時
成果物一覧、バージョン、リポジトリ、設定、第三者要素、操作マニュアルを確認します。検収と同時に、権利移転や利用許諾がいつ効力を生じるかも確認します。
契約終了後
データの返却・削除、保守終了後の利用、受託者の再利用、改良成果、外部サービス停止時の移行を確認します。何を、いつ、どのように残すかはAI開発の知財証拠の記事で詳しく整理しています。
よくある質問
自動的に移るわけではありません。納品と著作権の譲渡は別の問題であり、契約内容、成果物を作成した主体、職務著作の成否などを確認する必要があります。著作権を譲渡する場合は、対象範囲や著作権法第27条・第28条の権利の扱いも明確にします。
その一文だけでは不十分なことがあります。何が成果物に含まれるか、既存技術と新規成果をどう分けるか、発注者の改変・再委託・再販売、受託者の再利用、第三者要素の条件まで分けて定める必要があります。
プロンプトであれば常に著作物になるわけではなく、表現に創作性があるかを個別に検討します。著作物に当たらない場合でも、秘密情報やノウハウとして管理し、契約によって利用・開示・再利用の範囲を定めることはできます。
当然に再利用できるわけではありません。利用目的、AI学習・サービス改善・統計化の可否、第三者提供、個人情報や秘密情報の取扱い、保存期間、契約終了時の返却・削除を確認する必要があります。
受託者が第三者から取得した権利を超えて譲渡することはできません。OSSライセンス、AIサービスの利用規約、モデルやデータセットのライセンスを確認し、自社開発部分と第三者要素を成果物一覧で分ける必要があります。
AIを使った成果物であっても、人間に創作意図と創作的寄与が認められるかなど、具体的な生成過程を踏まえて判断されます。著作物性の問題と、既存著作物に対する権利侵害の問題は分けて確認する必要があります。
成果物の名前ではなく、利用関係を分ける
AI受託開発では、「成果物は誰のものか」という一問だけでは十分ではありません。
何を納品するのか。誰が権利を持つのか。発注者は何ができるのか。受託者は何を再利用できるのか。第三者の条件がどこに残るのか。
この五つを、ソースコード、プロンプト、データ、AIモデル・生成物、ノウハウ・発明ごとに整理することで、契約と実際の開発を結びつけやすくなります。
知財の余白では、契約書の文言だけでなく、成果物、既存技術、データ、外部サービス、事業化まで含めて、どこに境界を引くべきかを整理します。
参考資料
- 経済産業省「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」(2025年2月18日、2026年8月6日閲覧)
- 経済産業省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン 1.1版」(2019年12月、2026年8月6日閲覧)
- 中小企業庁「知的財産取引に関するガイドライン・契約書のひな形」(令和8年1月改正、2026年8月6日閲覧)
- 文化庁「AIと著作権について」(2026年8月6日閲覧)
- e-Gov法令検索「著作権法」(第15条、第59条、第61条、第63条、2026年8月6日閲覧)
- e-Gov法令検索「特許法」(第33条、第35条、2026年8月6日閲覧)
- e-Gov法令検索「不正競争防止法」(第2条第6項、2026年8月6日閲覧)